圧電方式によるプラズマ発生器CeraPlas™
2014年10月31日
単一部品で低温プラズマを発生
産機や医療など幅広い分野で、さまざまな恩恵をもたらす技術として、低温大気圧プラズマが期待されています。TDKは、従来のプラズマ装置にくらべ、小型で扱い易く高効率なプラズマ発生器である CeraPlas™を新開発しました。
幅広い産業分野において、低温プラズマ技術への関心が広がっています。低温プラズマは物質を傷つけたり破壊したりせずに、その表面特性をさまざまに改質させることができるだけでなく、物質の表面や空気を清浄化したり、殺菌に利用したりすることもできるからです。プラズマとは、空気やガスが電離して陽イオンと電子になって自由運動している状態のことで、固体、液体、気体に次ぐ物質の第4態といわれます。このため、プラズマは金属に似た導電性をもち、その特性は、エネルギー、圧力、ガスの種類といった条件、あるいは表面前処理用の物質などに依存します。プラズマ処理は、ほとんどすべての産業分野の数多くのアプリケーションに使用されています。こうした応用が広がる中で、低圧(真空)下ではなく、大気圧(常圧)下でプラズマを生成させる大気圧低温プラズマが、特に工業や医療分野における表面処理、洗浄、殺菌、消臭などへの応用として期待されています。
プラズマ装置のプラズマ源には高電圧が要求されるため、高電圧をつくるためのトランスやGHz帯の高周波発生器が必要となります。既存の装置においては、製造の難易度や安全面での理由から、プラズマ源の高電圧電源とプラズマ発生器は、通常、別の筐体として設計されます。また、ユーザーを高電圧から保護する安全対策が必要となるため、既存の装置の多くは、かなりかさばるものになるうえ、使用するガスの種類の選択肢も限られたものになることがあります。その一方で、市場は、小型・軽量で扱いやすい高性能の大気圧低温プラズマ発生器を求めています。さらにいえば、バッテリ駆動タイプで、さまざまな種類のガスを使える製品が理想なのです。
単一部品によるソリューション
これらの要件を単一の小型コンポーネントとして実現したのが、 CeraPlas™ です。オーストリアのドイチェランツベルグにある開発拠点で製品化されたEPCOS CeraPlasは、長年にわたり積み重ねられた圧電アクチュエータの量産技術や積層セラミック技術のノウハウを駆使したもので、プラズマ発生装置のトップメーカーの一つであるドイツのrelyon plasma社との密接な連携により開発されました。
CeraPlasは、大気圧低温プラズマをきわめて効率的に発生できる新製品です。圧電トランスの原理を利用した電圧変換機能とプラズマ発生機能を独自の製法で単一コンポーネントに組み込んだもので、圧電トランスの2次側に高電圧を発生させると同時に、電極間に低温プラズマを発生させます。
革新的な圧電セラミック材料の採用
CeraPlasの開発にあたって新たに取得した特許は、ハード系のPZT(Lead Zirconate Titanate:チタン酸ジルコン酸鉛)をベースとする圧電セラミック材料と銅内部電極の同時焼成を可能にする技術です。これらの組み合わせの結果、良好な電気機械結合や低損失とともに、広い振動領域にわたって高度で安定した機械品質係数(Qm、機械的Q)が得られます。
このコンポーネントは、積層ローゼン型圧電トランスとして設計されています。入力側は銅製の内部電極を持つ積層構造になっているのが特徴で、一方、トランスの出力側はモノリシック構造になっています。(図1)
圧電トランスの電圧変換は、共振周波数で弾性定在波が生成されることにより行われます。その結果、入力側の低電圧が機械的に結合された出力側に高電圧として変換されます。圧電トランスは2次高調波モードで動作するため、ケースなどに固定する際は、定在波の節の位置に保持部材を取り付けることで振動を妨げないようにします。
圧電トランスによるプラズマ発生の原理は、誘電体バリア放電(DBD)という放電現象です。圧電トランスの出力側に高電圧がつくられると、誘電体をはさむ2つの電極間でプラズマ放電が発生するのです。一方CeraPlasでは、このプラズマ放電は圧電トランスの出力側の表面で起こります。圧電トランスの表面は、ここでは誘電体電極としても動作するため、従来のDBD方式の装置に用いられるような放電電極は不要です。電荷は誘電体の表面に集まり、強い電界を形成します。そして、マイクロ秒オーダーのきわめて短時間の放電を発生させ、誘電体表面の他の場所へと広がっていきます。他の放電方式と同様に、エネルギー源がイオン化(気体の電離)を続けるかぎり、プラズマは維持されます。
コンパクトで安全なプラズマ発生器
CeraPlasは、小型・軽量・低消費電力、そして低入力電圧と高出力電圧を特長とします。しかも、CeraPlasは特別な高電圧安全対策を必要とせず、さまざまなタイプのプラズマ発生器に容易に組み込むことができる高い柔軟性を持っています。これらの特長は、プラズマ温度や表面活性化などに関する卓越した性能にも結びついています。従来のプラズマ発生技術にくらべ、CeraPlasはきわめて低電力でより効果的な表面活性化を実現します。(図2)
CeraPlasは、12~24 Vpp(ピークtoピーク値)の正弦波入力電圧に対し、最大20 kVの出力電圧が得られます。これは、空気および窒素やアルゴンなどの工業用ガス内で放電を発生させるために十分な電圧です(図3)。プラズマ自体の温度は50℃未満なので、温度に敏感なほとんどすべての物質の表面処理に適しています。
CeraPlasの効率を向上させるため、プラズマ発生器に求められる最適要件を満たすドライバを開発しました。圧電トランスは定められた共振周波数で駆動しなければなりません。安定した動作のためには、負荷変動や環境変化に即座に反応することが重要です。図4はCeraPlasと接続したドライバの試作機です。このドライバは圧電トランスを調整し、コンポーネントにかかる潜在的なストレスを軽減します。
CeraPlasを用いたプラズマ源は、既存の低電力プラズマ発生器とくらべて、すぐれた性能を示します。その構成はきわめてシンプルです。すなわち、低電圧電源、ドライバ、CeraPlas、ガス供給だけなのです。したがって、CeraPlasは使用条件に応じて、ペン型、携帯用デバイス型、産業機器向けモジュールなど、さまざなデザインが可能。
CeraPlasを使った最初の商品
CeraPlasを用いた製品として、最初に市場投入されたのは、TDKとの密接な協力のもとでドイツのrelyon plasma社が開発した大気圧低温プラズマ発生器piezobrush®PZ2です(図5)。piezobrush PZ2は、外部のガスを必要としないコンパクトな携帯デバイスです。プラズマは搭載されたCeraPlasによって放出され、きわめて表面活性化の効率が高いのが特長です。また、piezobrush PZ2は、発生するプラズマの温度が50 ℃未満と低温であるため、温度に敏感な物質の表面活性化に使用することができます。これらの特長とそのコンパクトな形状を生かすことで、携帯デバイスに実装したり、産業用途に応用したりと、可能性は大きく広がっています。
高信頼性と卓越した電力密度をコンパクトサイズで実現CeraPlasを用いたrelyon plasma社のpiezobrush PZ2は、低消費電力、小型、軽量、ハンドヘルド、低騒音などを特長とする低温プラズマ発生器です。relyon plasma社の社長であるステファン・ニッテスハイム博士にCeraPlasの効用について話をうかがいました。 relyon plasma社は、なぜCeraPlasを新製品のキーコンポーネントとして選択したのですか? CeraPlasのどの機能が最も印象的ですか? CeraPlasの高い効率により、何か特別のメリットが得られましたか? |
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CeraPlasのサンプルは既に提供可能です。また、CeraPlasの連続生産も準備中で、そこには自動車の燃料噴射システム用積層圧電アクチュエータなど、EPCOSのすぐれた圧電製品の量産技術が活用されています。
CeraPlasは、圧電トランスを用いたプラズマ発生器を小型コンポーネントとして一体化した世界初の製品。自動車の内装テキスタイルやプラスチックの表面処理、食品加工機や医療機器の滅菌、さらには外傷の直接治療など、イノベーティブな幅広い分野での利用に最適です。
表:CeraPlasの主な仕様
動作電圧 [Vpp] | 12~24 |
動作周波数 [kHz] | ~ 50 |
出力電圧 [kV] | 最大15 (負荷に応じて) |
転送電力 [W] | 10 (最大) |
プラズマ温度 [°C] | <50 |
プロセスガス | 空気、およびN2、Ar、Heなどの産業用ガス |
オゾン生成率 [ppm] (at 8W、カスタマイズされた測定設定下で) | 20 |
寸法 [mm] | 72 × 6 × 2.8 |
材料セット | 同時焼成した銅電極とハードPZT |
アセンブリ | はんだ付けおよび節点での接合 |