2011年3月

トラクション・コンバータ用パワーコンデンサ

オン・ザ・ファースト・トラック

TDK-EPCは、中国国鉄向けにドイツ・シーメンス社が製造する「ヴェラロ」(Velaro)高速鉄道車両用に、EPCOS製パワーコンデンサを供給しています。トラクション・コンバータの共振回路に使用されるものです。

中国では鉄道網が着々と整備・拡張されています。シーメンス製Velaro CNは、中国国鉄(CR)が運行する国内最速の鉄道車両であり、オリンピックが開催された2008年にサービスが開始されました。Velaro第4世代となるこの車両はCRH3と呼ばれ、ドイツ鉄道のICE3をベースに製造されたものです。TDK-EPCはこれまでに、同車両の1000個余りのトラクション・コンバータに共振回路コンデンサを供給してきました。


シーメンスは2005年に、中国国鉄からVelaro CN高速鉄道車両60編成を受注しました。CNの車体幅はICE3を上回り、横一列の座席に6人が掛けられる広さを確保しています。全長200メートルの8両編成で、定員は600名超となっています。約447トンもの重量ながら、設計上の時速は300 km、改造すれば時速350 kmも可能です。2008年オリンピック開催時に、最初に納入された5編成の営業運転が開始されました(図1)。

図1:Velaroの動力分散方式原理

60編成は現在、北京と天津(北京の南東に位置する港湾都市)を結ぶ115 kmの定期路線に投入されており、駅間の所要時間は30分です。最初に納入した3編成の後は、唐山汽車車両廠(TLRW)が中国版Velaro CN車両の現地生産を行っています。

新たな駆動方式の採用により座席スペースを15%拡張

Velaro CN の駆動システムは先頭車両と後尾車両の機関車には設置されておらず、それぞれの車両の床下に分散配置されています(図1)。全32車軸のうち16車軸がモータ駆動となっており、各車両にある4個のトラクション・コンバータから4個のモータが供給されています。こうした駆動方式の採用により、座席スペースを15%も拡張することが可能になりました。とりわけ、先頭・後尾に機関車がないため、乗客が車内から線路を見ることができるのが大きな魅力です。もっとも、車両の床下にはぎっしりと機器が設置されています。トラクション・コンバータや駆動モータのほかにも、変圧器や空調機、圧縮空気発生装置、トイレタンクなど、様々な装置のスペースを確保しなければなりません。したがって、トラクション・コンバータ用のスペースも当然狭くなります。

電車に必要な共振回路

産業用の三相モータとは異なり、機関車や編成車両のトラクション・モータは単相交流電圧によって運転されます。Velaro CNの架空線電圧25 kV(50 Hz)はまず降圧・整流された後に、直流リンクコンデンサにより平滑化されます。

しかし、単相供給のため、直流リンク電圧には2倍の周波数のリップル電圧が重畳されます。そこで、共振回路、つまり、2倍の周波数に同調したコンデンサとチョークコイルから成る直列発振回路により、追加のフィルタリングや干渉抑制を行います。

Velaro CNの共振回路は、並列に接続した2個の固定コンデンサと、1個のケースに4個のコンデンサを収めたチューニング・コンデンサによって動作します。こうした設計により、チョーク・インダクタンスに劣化や発散が生じ静電容量が損失しても、共振回路周波数は正しく調整されます。

お客様志向のソリューション

基本設計はシーメンス社の仕様をベースに行い、その後、シミュレーションモデルを用いて、温度プロファイルや電流・周波数反応、さらには高速鉄道の運行サイクルを想定して最適化が行われました。共振回路にはEPCOS製MKK DCIパワーコンデンサを採用。これは、直流電圧で動作する油浸コンデンサで(図2)、制限負荷や防火に対する厳しい要件も満たしています。

図2:共振回路コンデンサ
MKK DCIパワーコンデンサは、直流電圧で動作する油浸コンデンサ。制限負荷や防火に対する厳しい要件も満たす。

Velaro CN車両のトラクション・コンバータの共振回路を構成する2個の固定コンデンサは、いずれも静電容量が1529 μF、使用電圧が3600ボルトとなっています。他方、チューニング・コンデンサは複数のタッピングポイントを備えているため、静電容量が合計で1520 μFになる4個のコンデンサを1個のケースに収めて提供しています(表参照)。


表:EPCOSパワーコンデンサの技術データ (別添)

パラメータ固定コンデンサチューニング・コンデンサ
静電容量 [μF] 1520∑ 1520
定格電圧3600 V DC / 2960 V AC3600 V DC / 2960 V AC
ピーク電圧  6000 V DC / 8300 V AC6000 V DC / 8300 V AC
動作電流 [A] 273273
ピーク電流 [kA] 200200
動作温度 [℃]  −40 ~ +70−40 ~ +70
空気湿度< 95%< 95%
気候カテゴリー  40 / 070 / 5640 / 070 / 56
熱負荷 [g] < 300
(要件0)
> 300
(カテゴリ2)
外形寸法 (W×D×H)[mm] 340 x 600 x 165340 x 600 x 165
重量 [kg] 5758

信頼性と長寿命

パワーコンデンサの内部は、セグメントに分割された構造化フィルムから構成されています。Velaro CNの共振回路コンデンサは、並列または直列接続された10,000個ものコンデンサ素子群からなり、それらがフィルム表面に積層され、接合されています(図3)。

図3:EPCOS製パワーコンデンサの内部構造

内部には約10,000個ものコンデンサ素子が積層している。それらを最適に並列または直列接続することで、高電圧で大きな静電容量を得ることができる。

こうした構造原理により、パワーコンデンサの絶縁破壊時の自己回復機能と自己保安機能(非臨界挙動)が可能となります。つまり、1箇所 のコンデンサ素子に絶縁破壊が生じても、その箇所で蒸着金属が飛散し、他の金属表面から切り離され、十分な隙間が再び確保されます。過電流がさらに増加すれば、フィルムは完全に溶解します。このように、コンデンサの他の分割素子の加熱の危険性を回避し、損傷を防ぐことで、個々のコンデンサ素子の自己保安性を高めているのです。

MKK DCIパワーコンデンサの各コンデンサ素子はそれぞれ、直接リード線に接合されています。このため、寄生インダクタンスが極めて低いだけでなく、内部抵抗も低くなっています。また、配線もわずかで済むため、ESR値も抑えられます。結果として、Velaro CNの共振回路コンデンサは、その自己加熱性の低さや、最大200 kAまでの超高パルス耐性によって群を抜いています。こうした特性は、高スイッチング周波数で作動するIGBTパワースイッチでは特に重要です。

コンパクトで高信頼性

EPCOSの共振回路コンデンサには菜種油が含浸されており、乾式成膜法によるものよりも高い熱配分特性を有しています。オイル含浸により、コンデンサフィルムは最大240 V/μmの高電解強度に対応し、コンデンサ内のエネルギー密度が極めて高いため、340 x 600 mm x 165 mm3の超小型化も実現しています。ステンレスケースに溶接収納されたコンデンサは、最大8300 V ACまでのピーク電圧に耐えられます。

本コンデンサが高い信頼性を確保しているのは、最適構造によるものだけではありません。動作寿命の200,000時間は23年もの連続運転に相当し、EN50155の規格要件を大きく上回ります。加えて、MKK DCIコンデンサは極めて安定性の高い静電容量をもち、容量の低下は、通常の使用環境であれば、動作寿命を通じて3%をはるかに下回る率にとどまります。

鉄道車両の衝撃や振動にもかかわらず、MKK DCIコンデンサの電気的特性は、-40℃~70℃の広い温度範囲で安定性を保ちます。また、本コンデンサは鉄道用電気設備の国際規格であるIEC1071の要件を満たしています。

IRIS認証工場

共振回路コンデンサの設計が完成すると直ちに、TDK-EPCのスペイン・マラガ工場でサンプル生産が開始され、動作寿命試験や電気・熱的特性の認定試験が行われました。次いで、シーメンス社がトラクション・コンバータの初期サンプル品にコンデンサの組み込みを行った後、中国国鉄の仕様に基づき検査試験が行われました。TDK-EPCのマラガ工場は、世界で初めてヨーロッパ鉄道工業連盟のISO9001に基づくIRIS認証を取得した工場の一つです。インドのナシクにある工場も、最近IRIS認証を取得しています。

高速鉄道市場や貨物輸送市場の拡大を見据え、インドと中国では目下、パワーコンデンサの生産能力増強に取り組んでいます。これらの工場は国営鉄道会社が発注の際に要求する現地調達を満たすだけでなく、なによりも顧客の要求に対する迅速で柔軟な対応を可能にしています。

TDK-EPCは共振回路コンデンサの他にも、Velaro CN車両のトラクション・コンバータ用コンデンサを数多く供給しており、これにはIGBTパワースイッチのフィルタや電気回路向けコンデンサなどが挙げられます。

パワーコンデンサの開発動向

原則として、耐久性・寿命に優れたVelaro CN用共振回路コンデンサは高速鉄道だけでなく、あらゆる機関車や鉄道車両に適しています。さらに、同調共振回路の採用は、国境を越える路線での鉄道運行にとって最適です(中央ヨーロッパやスカンジナビアの一部は16 2/3 Hz、フランスは50 Hz)。

MKK DC/DCIコンデンサは、アプリケーションに応じて外形形状をカスタマイズできるため、コンバータの回路配置を簡素化・最適化することが可能です。このことは、挿入高さの低いフィルムコンデンサの矩形形状が、IGBTパワースイッチの寸法にぴったりと収まることからも明らかです。これにより、省スペース化だけでなく、リード接続も簡易化でき、システム全体のコスト削減や信頼性の向上にも繋がります。

中国国鉄は2009年3月、CRH3をベースにした高速鉄道用車両100編成を追加発注しました。16両編成の新型モデルの全長は、従来モデルの2倍になります。走行スピードは時速350 kmで、1300 km離れた北京‐上海間の所要時間が4時間ほどに短縮されます。新型CRH3車両にもTDK-EPCの共振回路コンデンサが実装されています。

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