2011年10月

太陽光発電システム向けの高特性フェライト

損失ゼロのコア材料を目指して

インバータ用リアクタやトランスにおいて、低損失かつ高飽和磁束密度のコア材は、インバータの効率を決定する重要な要因です。TDKが開発したフェライト PE90材は、太陽光発電システム用インバータの昇圧チョッパ回路や平滑回路に搭載されるリアクタの損失を最小限に抑え、変換効率を大きく向上させる最新鋭のコア材です。

太陽光発電システム向けの最先端のインバータやパワーコンディショナには、電力変換プロセスで不可欠なリアクタが少なくとも2個搭載されます。ブーストコンバータ(昇圧チョッパ回路)用に1つ、出力側のEMCフィルタリングと平滑化にもう1つのリアクタが必要です(図1参照)。

図1: インバータの基本的な回路構成

太陽光発電システムで使われるインバータには、少なくとも2つのリアクタが必要です。1つはブーストコンバータ用(昇圧チョッパ回路)であり、もう1つは、インバータの出力部のEMCフィルタリングおよび平滑用です。IGBTに加え、リアクタにおける損失はインバータ全体の効率を決定する重要な要素となっています。

市場での競争力を確保するために、現在のインバータでは98%を超える効率を実現する必要がありますが、従来のコア材を使用すると各リアクタの出力の約0.5%が損失になってしまいます。最近まで、これはそれほど重要なことと考えられていませんでしたが、競争がますます激しくなっている太陽光発電システムの市場において、この値はマイナス要因となるため、インバータやパワーコンディショナのメーカーにおいては、リアクタとトランスは、かつてないほどの重要な設計ポイントになっています。

リアクタとトランスによってインバータの効率を向上させる場合、たとえば家庭用太陽光発電システム向けに広く普及している3.3~5.5 kWクラスのインバータにおいては、ピーク電流に対応できる高い飽和磁束密度が、リアクタとトランスにおいて実現される必要があります。また、リアクタとトランスのコア損失は、ケイ素鋼板やセンダストなどの従来のコア材で達成される値よりも大きく下回ることが求められます。この用途のソリューションとしてTDKが開発したのが、すぐれたコアロス特性と高飽和磁束密度を兼ね備えた高特性フェライト PE90材です。

新たな可能性を開く高特性フェライト PE90材

TDK のフェライトPE90材は、高飽和磁束密度を特長とする既存のPE22材をさらに進化させた材料です。109 x 55 x 115 mm3の寸法をもつプロトタイプのリアクタで、PE22材とPE90材の2素材の比較試験を行いました。調整されたエアギャップ値とインダクタンス値は同等のレベル(1.1 mH)で、磁気飽和(0 AのIDCから10%低下したインダクタンス)により決まる直流重畳電流のピーク値は約20 Aに調整されました。リアクタとトランスの電流能力を決定する直流重畳特性は、設計において不可欠の要素です。従来の高飽和磁束密度材のPE22材では、19 Aで磁気飽和に達しましたが、新開発のPE90材では、21 Aまでリアクタとしての機能を果たすことができ、PE90材のレベルはPE22材よりも約10%向上しています(図2参照)。

図2: インダクタンスと直流重畳特性の例

PE90材のすぐれた材質と高飽和磁束密度によって、電流レベルは従来のPE22材よりも約10%向上します。

また、100℃におけるPE90材のコアロスはPE22材より23%も下回ったため、磁束密度の立ち上がりが急峻になり、飽和に達する直前までマイナーループの直線性が維持されました。このようにPE90材は高飽和磁束密度を特長とするきわめてすぐれたパワーフェライトであるとともに、低コアロスをあわせて実現した素材です。その結果、軟磁性金属材料のコアを用いたリアクタを、サイズを変えることなく PE90材のコアで置き換え可能になりました。

リアクタの損失を最大で1/3削減

フェライトPE90材のフェライトのすぐれた特性は、ケイ素鋼板やセンダストなど従来の金属系軟磁性材料と比較することでさらに明らかになります。鉄損と銅損を合わせた総損失において、パワーコンディショナに組み込まれたリアクタの実際の性能を比較すると、PE90材の優位性がはっきりと示されます。たとえば3 kWの太陽光発電システム用インバータの平滑回路に用いられるリアクタを対象としたシミュレーションでは、PE90材のコアロスは、ケイ素鋼板を用いた同等サイズのリアクタよりも33%、センダストを用いた同等サイズのリアクタよりも約30%低い値が得られました(図3参照)。

図3: ケイ素鋼板とセンダストの損失の比較
コア材ケイ素鋼板フェライトPE90材
コアの寸法 [mm3]* 105 × 110 × 60
リアクタの損失 [W]14.49.7
損失率 [%]** 10067.4
損失低減 [W]--4.7
コア材センダストフェライトPE90材
コアの寸法 [mm3]* 100 × 110 × 60105 × 110 × 60
リアクタの損失 [W]13.89.7
損失率 [%]** 10070.3
損失低減 [W]--4.1

*両方の素材とも、コアおよび長方形状の巻線の断面は同じ。鉄損と銅損がほぼ同じになる巻数。
**比較するリアクタの損失が100になる比率。

高周波インバータのリアクタの小型化を可能にする

95%以上の効率を達成しているインバータの多くは、高速駆動と低損失化を両立させたトレンチ型IGBTが搭載されています。高速ソフトリカバリーダイオードを組み込んだこのIGBTは、ケイ素鋼板やセンダストの動作周波数範囲を超える30 kHz程度までのスイッチングに対応できます。また、最新の大電流用途向けIGBTでは、大幅な損失削減とさらなる高速化が図られており、パワーコンディショナの高速スイッチング要件を満たした30〜50 kHz駆動素子が可能になっています。

昇圧チョッパ回路用のリアクタを含め、搭載されているすべてのリアクタにTDKの高特性フェライト PE90材が使われ、そのすぐれたコアロス周波数特性によって設計されている場合、インバータの動作周波数は現行標準の15~20 kHzではなく、30~35 kHzに設定することが可能です。動作周波数の範囲がほぼ2倍になると、ケイ素鋼板やセンダストの採用は困難になります。

また、この高い周波数範囲においても、PE90材のコアロスは、15〜20 kHzにおけるセンダスト材のコアロスを大きく下回っています。さらには、周波数が高くなるほど銅損は増加しますが、必要となる磁束密度は小さくなるため、コアの小型化が可能になります。つまり、コア材としてPE90材を採用することで、より高効率のインバータを、より小さなリアクタで設計することができます。

表: フェライトPE90材の材質
初透磁率* [kW/m³]at 23 °C: 2200
コアロス PCV** [kW/m³]at 90 °C: 60
at 100 °C: 68
飽和磁束密度 Bs*** [mT]at 23 °C: 530
at 100 °C: 430
飽和磁束密度 Br*** [mT]at 23 °C: 170
固有の保磁力 HC*** [A/m]at 23 °C: 13
キュリー温度 TC [°C]250 (min.)
比電気抵抗 [Ω × m]6.0
見かけ密度 dapp [kg/m³]4.9 × 103
比熱 [1/K]12 × 10-6
曲げ強度 κ [W/mK]5
比熱 Cp [J/kg × K]600
曲げ強度 δb3 [N/m²]9 × 107
ヤング率 E [N/m²]1.2 × 1011
磁歪定数 λS-0.6 × 10-6

* at 1 kHz, 0.4 A/m
** at 25 kHz, 200 mT
*** at 1194 A/m

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