TDK Electronics

モバイル機器およびEV向けワイヤレス充電

2014年4月25日

超薄型・高効率ワイヤレス給電用コイル

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スマートフォンをはじめとするモバイル機器の多機能化の広がりとともに、簡単で頻繁に充電したいというユーザーの要求が高まっています。TDKでは、モバイル機器のワイヤレス給電システムに最適な送電(Tx)コイルユニットおよび受電(Rx)コイルユニットを豊富な製品ラインナップで提供しています。

近年、さまざまなワイヤレス給電システムの研究が進められる中で、モバイル機器向けの主要規格として、低電力仕様のQi規格(5 W以下)が登場しました。これはWPC(ワイヤレスパワーコンソーシアム)が、IEEE-ISTOの支援を受けて策定した国際標準規格です。このQi規格は電磁誘導を利用したワイヤレス給電方式で、すでにさまざまなモバイル機器で実用化されています。給電パッド(一次側)の送電コイルで発生する高周波数の磁束は、モバイル機器(二次側)の受電コイルへ伝送され、そこで磁束は電力に変換されて機器のバッテを充電します。電磁誘導によるワイヤレス給電は比較的低コストで実現できるのが利点ですが、効率よく効果的に機能するのは約10 mmという短い給電距離の場合にかぎられます。そのため、送電コイルと受電コイルの正確な位置合わせが不可欠となります。WPCは、以下に示す3つの方式に関する仕様を規定しています。

  • マグネットアライメント方式
  • ムービングコイル方式
  • コイルアレイ方式

3つの方式のうち、①のマグネットアライメント方式が最も単純です。しかし、この方式は、磁気回路の設計に考慮すべき課題があります。送電コイルの中心に配置したマグネットの磁力により、受電コイルの中心に配置した磁性体を引き付けることで、2つのコイルを位置合わせするからです(図1)。

さらに、この受電コイルは、上記の3つの方式のすべてで正常に動作できなければ、Qi規格の認定を受けることができません。そこで、TDKでは、まずマグネットアライメント方式に対応した送電コイルユニットと受電コイルユニットを設計しました。さらに、TDKではこの設計に基づき、ムービングコイル方式とコイルアレイ方式に対応した給電コイルと受電コイルの各種製品も開発しました。

マグネットアライメント方式のQi規格ワイヤレス給電システム
 Figure1_1_ja
図 1:

送電コイルの中心に置かれたマグネットの磁力により、受電コイルの中心の磁性材が引き付けられ、2つのコイルが位置合わせされます。

 Figure1_2_ja
図 2:

構造はシンプルなものの磁気回路設計はきわめて困難です。システムの全体的な性能を保証するには、高特性の磁気シートによる磁気シールドが不可欠です。適切な磁気シールドなしでは、高周波磁束がバッテリケースまで届いて渦電流を発生させ、バッテリケースを過熱させるおそれがあるからです。

高周波用の高特性フェライトを用いた磁性シート

マグネットアライメント方式のコイルの設計には、すぐれた磁性材料技術が必要です。Qi規格のワイヤレス給電システムは、おおむね100~200 kHzの周波数で動作します。ワイヤレス給電に使用される送電コイルは、高周波の磁束を効率的に伝送させるため、磁性材シートと併用されます。TDKでは、この磁気シートに、トランスやチョークコイルのコアに多用されている高周波用の高特性フェライトを採用しています。フェライトはコイルで生成される磁束をよく吸収し、高いインダクタンス値を提供することができるからです。

図2は、金属磁性材料とフェライトの特性を比較したグラフです。磁性金属材料は高い飽和磁束密度を特長としますが、電気抵抗率が低いため、高周波領域では渦電流による熱損失が急増します。これに対し、磁性セラミックスであるフェライトは、電気抵抗率が高く渦電流損が小さいため、高周波領域での使用に不可欠な磁性材料となっています。また、TDKでは受電コイル側の磁気シールドにもフェライトの磁気シートを採用しています。

 Figure2_ja
図 3:

磁性金属材とフェライト材の比較

金属磁性材料(赤色)は高い飽和磁束密度を特長とし、大電流を加えることができますが、電気抵抗率が低いので、高周波では渦電流損が大きくなってしまいます。かたやフェライト(青色)は電気抵抗率が高く、高周波でも渦電流損が少なくないのが特長です。

スマートフォンなどのモバイル機器に搭載される受電コイルと磁気シートは、可能なかぎり薄くする必要があります。しかし、磁気シールドが薄すぎる場合、磁気飽和の問題が発生しやすくなります。こうした問題が発生すると、コイルのインダクタンスが突然低下し、ワイヤレス給電動作の障害につながります。この磁気飽和を防止するためにも、特に受電コイルの磁気シートには高特性の磁性材料を選択する必要があるのです。

高度な設計技術が求められる磁気シートの素材と厚み

マグネットを用いずに位置合わせする方式では、ごく薄い磁気シートでも高周波の磁束を十分にシールドすることができます。しかし、マグネットアライメント方式では、送電コイルで発生する高周波数の磁束とマグネットの磁束の両方を、受電側の磁気シートによって吸収・シールドする必要があります。

というのも、スマートフォンの受電コイルの搭載場所は、多くの場合、バッテリと機器の背面カバーの間となります。このため、磁性シートによる磁気シールドが不十分な場合、高周波の磁束がバッテリケースまで到達してしまいます。通常、バッテリケースはアルミニウム製なので、高周波磁束によってケース表面に渦電流が発生し、その結果、バッテリケースが異常に発熱するおそれがあるのです。このため、マグネットアライメント方式では、マグネットを用いない方式よりも、磁気シートを厚くする必要があります。

アルミニウム板を用いて実際の環境をシミュレートした試験からも、磁気シートが薄すぎる場合、受電コイルのインダクタンス値が大幅に低下することが判明しています。ただし、高周波磁束とマグネットの磁束の両方を吸収しかつ磁気飽和を防ぐともに、薄さも要求されるので、磁気シートの素材と厚みは慎重に設計する必要があります。

送電コイルと受電コイルの幅広い製品ラインナップ

ワイヤレス給電に関するメーカーとユーザーの要求を満たすソリューションとして、TDKでは、主要なWPC Qi規格に対応する送電コイルおよび受電コイルを幅広い製品ラインナップで提供しています。

送電コイル

TDK の送電コイルは、さまざまな低電力仕様(5 W以下)のQi規格に対応して開発されました(表1を参照)。これらの仕様には、マグネットアライメント方式による単一の送電コイル(仕様A1とA9)およびマグネットを使用しない方式の単一の送電コイル(仕様A10とA11)が含まれます。また、置き場所が自由なコイルアレイ方式の充電パッドの場合、3つのコイルによる線形アレイも利用できます。これらすべての送電コイルには、WPC認定のフェライトシートが使用されています。きわめて薄型でフレキシブルなタイプもあります。コイルの性能は、WPC認定の装置によって確認されています。

表1:TDK の送電コイルユニットの製品構成
 Figure3_1_ja

A10 – マグネットを使用しない単一の送電コイル

 Figure3_2_ja

A11 – マグネットを使用しない単一の送電コイル

 Figure3_3_ja

A1とA9 – マグネットアライメント方式に対応した単一の送電コイル

 Figure3_4_ja

A6 – 送電コイルの線形アレイ

WPC仕様

A10 – マグネットを
使用しない単一の送
電コイル

A11 – マグネット
を使用しない単一の
送電コイル

A1とA9 – マグネッ
トアライメント方式
に対応した単一の送
電コイル
A6 – 送電コイルの
線形アレイ

入力電圧[V]       

19

5

19 (A1), 12 (A9)

12

インダクタンス[µH]*

24

6.3

24

11.5~12.5

最大直流抵抗[Ω]**

0.10

0.06

0.10

0.08

フェライトタイプ

軟質

軟質

硬質

軟質

マグネット[mm]

--

--

12.5 × 2.0(ボンド磁石)

--

シート寸法[mm]

50 (Ø)

52 × 52

100 × 56

コイル巻数

20(2層 × 10)

10(1層)

20(2層 × 10)

12(× 3コイル)

コイル + シートの厚さ[mm]

3.13

2.08

4.63

2.53(底部)

I/Oを含む厚さ[mm]

--

3.13

--

4.03(上部コイル)

コイルの外形寸法

43 (Ø)

53.2 x 45.2

* 100 kHz, 1 VRMS
** 25 °C で

受電コイル

受電コイルは、0.50 mm~1.25 mmまでの広範囲の厚さに対応し、多くのワイヤレス給電用途の仕様を満たしています(表2を参照)。すべての受電コイルは、磁力で吸引するマグネットアライメント方式に対応するために、磁性体をコイル中央に配置して設計されています。近距離無線通信(NFC)向け複合NFCアンテナ付き受電コイルもラインナップに含まれています。実際の条件下で耐久構造を確認するために、あらかじめ損傷させたフェライトシートを利用することもできます。2012年、TDKは世界最薄クラスの受電コイル(厚さ0.57 mm)を発表しましたが、その後、さらに薄型のコイル(標準的な厚さがわずか0.48 mm)も開発しました。

受電コイルモジュールは、吸引用の磁性体と制御装置を含む受電コイルで構成されたモジュールで、さまざまなワイヤレス給電システムにそのまま導入できます。また非常に薄いのが特長で、最大厚さはわずか1.0 mmです。必要に応じて特注設計も可能です。

 Figure4_1_ja

TDK の受電コイルユニットの製品構成

 Figure4_2_ja

複合NFCアンテナ付き受電コイルユニット

 Figure4_3_ja

受電コイルモジュール

タイプ

受電コイルユニット

複合NFCアンテナ付
き受電コイルユニッ

受電コイルモジュー

寸法[mm]

30 × 30
40 × 40
48 × 32

52 × 48

48 × 32

厚さ[mm]

0.52~1.25

0.52~0.62

1.0

効率[%]

66~73

69

72

インダクタンス[µH]*

12.3~19

16.5~19.5
(Rxコイル)

1.75~1.95
(NFCアンテナ)

13

最大直流抵抗[Ω]**

0.20~0.70

0.75~0.80
(Rxコイル)

0.46~0.52
(NFCアンテナ)

0.27

出力電圧[V]

--

--

4.95~5.05

出力電流[A]

--

--

0.5~0.7

* 100 kHz, 1 VRMS
** 25 °C で

拡大しているワイヤレス給電の適用分野

ワイヤレス給電技術は、低電力のモバイル機器以外にも利用されています。市場調査によると、今後、ワイヤレス給電の利用は、家電製品、PC、自動車、ロボットなどに拡大し、いずれは、あらゆる種類の電気機器・装置から電力ケーブルがなくなるとも予測されています。

特に自動車業界では、EV(電気自動車)向けの有力なワイヤレス給電ソリューションを求めています。現在TDKは、路上に設置された送電コイルから自動車側の受電コイルに磁気エネルギーを送るEV向けワイヤレス送電ソリューションに取り組んでいます(図3)。その主な目的は、高電力用途に適した新たな装置を開発することです。

TDKの高性能フェライト材の中でも、広い温度範囲にわたって低コアロス特性のタイプは、EV向けワイヤレス給電システムに特に適しています。最先端の素材技術と高度なシミュレーション技術により、TDKが開発したプロトタイプの受電モジュールは、コピー用紙サイズ(A4サイズ)に収まる小型化を実現しました。

TDKは、WPCのほかにPMA(Power Matters Alliance)とA4WP(Alliance for Wireless Power)の会員企業となっていて、電磁誘導方式および磁界共鳴方式のワイヤレス給電システムの高度なソリューションの提供に努めています。

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図 4:

EV向けのワイヤレス給電装置のイメージ

EV向けワイヤレス給電ソリューションでは、路上に設置された給電コイルから車載の受電コイルへ磁気エネルギーを伝送します。ここでもコイルのコアにTDKの高性能フェライトが活用されています。



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